美容外科の社会的役割

美容外科がまだ「整形外科」でひとくくりにされていたころ、その主なニーズはどういったものだったでしょう。手元の資料に拠りますと、利用内訳は「わきが治療」「にきび治療」「脱毛」「包茎治療」「陥没乳頭治療」「女性器脱色」「処女膜再生」「そばかす治療」「二重瞼治療」「隆鼻術治療」「あざ・ほくろ治療」などといったところが上位を占めています。理想美の追求、というよりは、むしろ「世間一般の中に埋没する」ことを目的とした「からだの悩み」に対応する治療が主体を占めています。

人気治療メニューの推移という観点からも美容外科の変遷は見て取れると思いますが、今も昔も変わらないその根源は「青春のお悩み」にあるのではないでしょうか。現在のネット社会に至るはるか以前、昭和年代の日本では、若者は限られた媒体の中で自己の平均化を図らねばならず、他者との相違に苦しみ悩んでいたのです。わきが、多汗症などは実際にいろいろ弊害もあるかもしれませんが、たとえば包茎など、よほどのことが無い限り、今どき気にする人も少ないのではないでしょうか。

そうは言っても、青春の悩みというものは数限りなく、また深刻で根の深いものであることは否めません。青少年に限らず、成年においても、そうした身体的コンプレックスが社会生活に及ぼす悪影響は計り知れません。こうした事態について、現代は心療内科をはじめとしたカウンセリングシステムが充実しているのは心強いことです。そしてそうした業務に携わるドクターが、近年治療の一環として推奨しているのが、実は美容外科なのです。

身体的コンプレックスをルーツとする精神的ストレスの解消手段として推奨されているセラピーのひとつとして、美容外科の内でも「プチ整形」と呼ばれる治療メニューの体系がクローズアップされています。プチ整形は周知のとおり、切らずに治せて元に戻すのも自由自在ですから、一時的緊急避難の手段としてもなかなか有効なわけです。もちろん、その結果ユーザーの精神が安定というレベル以上の満足を得られるなら、継続的に治療を続ける意味も出てくるわけです。

このプチ整形が美容全般と社会に与えたショック(良い意味での)は実に大きなものでした。まるでお化粧をするような感覚で、気軽に、手軽に、最上級の結果を得られる究極の美容として、美容外科がクローズアップされ、社会全体に認知されるきっかけとなったのは間違いありません。今では誰もがさほど抵抗なくプチ整形だけでなく、本格的な美容外科の治療を受けることが出来る社会的・心理的環境が整っているわけです。